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プロトコル

Git では、データ転送用のネットワークプロトコルとして Local、Secure Shell (SSH)、Git そして HTTP の四つを使用できます。ここでは、それぞれがどんなものなのかとどんな場面で使うべきか (使うべきでないか) を説明します。

注意すべき点として、HTTP 以外のすべてのプロトコルは、サーバー上に Git がインストールされている必要があります。

Local プロトコル

一番基本的なプロトコルが Local プロトコル, です。これは、リモートリポジトリをディスク上の別のディレクトリに置くものです。これがよく使われるのは、たとえばチーム全員がアクセスできる共有ファイルシステム (NFS など) がある場合です。あるいは、あまりないでしょうが全員が同じコンピューターにログインしている場合にも使えます。後者のパターンはあまりお勧めできません。すべてのコードリポジトリが同じコンピューター上に存在することになるので、何か事故が起こったときに何もかも失ってしまう可能性があります。

共有ファイルシステムをマウントしているのなら、それをローカルのファイルベースのリポジトリにクローンしたりお互いの間でプッシュやプルをしたりすることができます。この手のリポジトリをクローンしたり既存のプロジェクトのリモートとして追加したりするには、リポジトリへのパスを URL に指定します。たとえば、ローカルリポジトリにクローンするにはこのようなコマンドを実行します。

$ git clone /opt/git/project.git

あるいは次のようにすることもできます。

$ git clone file:///opt/git/project.git

URL の先頭に file:// を明示するかどうかで、Git の動きは微妙に異なります。単にパスを指定した場合は、Git はハードリンクを行うか、必要に応じて直接ファイルをコピーします。file:// を指定した場合は、Git がプロセスを立ち上げ、そのプロセスが (通常は) ネットワーク越しにデータを転送します。一般的に、直接のコピーに比べてこれは非常に非効率的です。file:// プレフィックスをつける最も大きな理由は、(他のバージョン管理システムからインポートしたときなどにあらわれる) 関係のない参照やオブジェクトを除いたクリーンなコピーがほしいということです。本書では通常のパス表記を使用します。そのほうがたいていの場合に高速となるからです。

ローカルのリポジトリを既存の Git プロジェクトに追加するには、このようなコマンドを実行します。

$ git remote add local_proj /opt/git/project.git

そうすれば、このリモートとの間のプッシュやプルを、まるでネットワーク越しにあるのと同じようにすることができます。

利点

ファイルベースのリポジトリの利点は、シンプルであることと既存のファイルアクセス権やネットワークアクセスを流用できることです。チーム全員がアクセスできる共有ファイルシステムがすでに存在するのなら、リポジトリを用意するのは非常に簡単です。ベアリポジトリのコピーをみんながアクセスできるどこかの場所に置き、読み書き可能な権限を与えるという、ごく普通の共有ディレクトリ上での作業です。この作業のために必要なベアリポジトリをエクスポートする方法については次のセクション「Git サーバーの取得」で説明します。

もうひとつ、ほかの誰かの作業ディレクトリの内容をすばやく取り込めるのも便利なところです。同僚と作業しているプロジェクトで相手があなたに作業内容を確認してほしい言ってきたときなど、わざわざリモートのサーバーにプッシュしてもらってそれをプルするよりは単に git pull /home/john/project のようなコマンドを実行するほうがずっと簡単です。

欠点

この方式の欠点は、メンバーが別の場所にいるときに共有アクセスを設定するのは一般的に難しいということです。自宅にいるときに自分のラップトップからプッシュしようとしたら、リモートディスクをマウントする必要があります。これはネットワーク越しのアクセスに比べて困難で遅くなるでしょう。

また、何らかの共有マウントを使用している場合は、必ずしもこの方式が最高速となるわけではありません。ローカルリポジトリが高速だというのは、単にデータに高速にアクセスできるからというだけの理由です。NFS 上に置いたリポジトリは、同じサーバーで稼動しているリポジトリに SSH でアクセスしたときよりも遅くなりがちです。SSH でアクセスしたときは、各システムのローカルディスクにアクセスすることになるからです。

SSH プロトコル

Git の転送プロトコルのうちもっとも一般的なのが SSH でしょう。SSH によるサーバーへのアクセスは、ほとんどの場面で既に用意されているからです。仮にまだ用意されていなかったとしても、導入するのは容易なことです。また SSH は、ネットワークベースの Git 転送プロトコルの中で、容易に読み書き可能な唯一のものです。その他のネットワークプロトコル (HTTP および Git) は一般的に読み込み専用で用いるものです。不特定多数向けにこれらのプロトコルを開放したとしても、書き込みコマンドを実行するためには SSH が必要となります。SSH は認証付きのネットワークプロトコルでもあります。あらゆるところで用いられているので、環境を準備するのも容易です。

Git リポジトリを SSH 越しにクローンするには、次のように ssh:// URL を指定します。

$ git clone ssh://user@server:project.git

あるいは、プロトコルを省略することもできます。プロトコルを明示しなくても、Git はそれが SSH であると見なします。

$ git clone user@server:project.git

ユーザー名も省略することもできます。その場合、Git は現在ログインしているユーザーでの接続を試みます。

利点

SSH を使う利点は多数あります。まず、ネットワーク越しでのリポジトリへの書き込みアクセスで認証が必要となる場面では、基本的にこのプロトコルを使わなければなりません。次に、一般的に SSH 環境の準備は容易です。SSH デーモンはごくありふれたツールなので、ネットワーク管理者の多くはその使用経験があります。また、多くの OS に標準で組み込まれており、管理用ツールが付属しているものもあります。さらに、SSH 越しのアクセスは安全です。すべての転送データは暗号化され、信頼できるものとなります。最後に、Git プロトコルや Local プロトコルと同程度に効率的です。転送するデータを可能な限りコンパクトにすることができます。

欠点

SSH の欠点は、リポジトリへの匿名アクセスを許可できないということです。たとえ読み込み専用であっても、リポジトリにアクセスするには SSH 越しでのマシンへのアクセス権限が必要となります。つまり、オープンソースのプロジェクトにとっては SSH はあまりうれしくありません。特定の企業内でのみ使用するのなら、SSH はおそらく唯一の選択肢となるでしょう。あなたのプロジェクトに読み込み専用の匿名アクセスを許可したい場合は、リポジトリへのプッシュ用に SSH を用意するのとは別にプル用の環境として別のプロトコルを提供する必要があります。

Git プロトコル

次は Git プロトコルです。これは Git に標準で付属する特別なデーモンです。専用のポート (9418) をリスンし、SSH プロトコルと同様のサービスを提供しますが、認証は行いません。Git プロトコルを提供するリポジトリを準備するには、git-export-daemon-ok というファイルを作らなければなりません (このファイルがなければデーモンはサービスを提供しません)。ただ、このままでは一切セキュリティはありません。Git リポジトリをすべての人に開放し、クローンさせることができます。しかし、一般に、このプロトコルでプッシュさせることはありません。プッシュアクセスを認めることは可能です。しかし認証がないということは、その URL を知ってさえいればインターネット上の誰もがプロジェクトにプッシュできるということになります。これはありえない話だと言っても差し支えないでしょう。

利点

Git プロトコルは、もっとも高速な転送プロトコルです。公開プロジェクトで大量のトラフィックをさばいている場合、あるいは巨大なプロジェクトで読み込みアクセス時のユーザー認証が不要な場合は、Git デーモンを用いてリポジトリを公開するとよいでしょう。このプロトコルは SSH プロトコルと同様のデータ転送メカニズムを使いますが、暗号化と認証のオーバーヘッドがないのでより高速です。

欠点

Git プロトコルの弱点は、認証の仕組みがないことです。Git プロトコルだけでしかプロジェクトにアクセスできないという状況は、一般的に望ましくありません。SSH と組み合わせ、プッシュ (書き込み) 権限を持つ一部の開発者には SSH を使わせてそれ以外の人には git:// での読み込み専用アクセスを用意することになるでしょう。また、Git プロトコルは準備するのがもっとも難しいプロトコルでもあります。まず、独自のデーモンを起動しなければなりません (この章の“Gitosis”のところで詳しく説明します)。そのためには xinetd やそれに類するものの設定も必要になりますが、これはそんなにお手軽にできるものではありません。また、ファイアウォールでポート 9418 のアクセスを許可する必要もあります。これは標準のポートではないので、企業のファイアウォールでは許可されなていないかもしれません。大企業のファイアウォールでは、こういったよくわからないポートは普通ブロックされています。

HTTP/S プロトコル

最後は HTTP プロトコルです。HTTP あるいは HTTPS のうれしいところは、準備するのが簡単だという点です。基本的に、必要な作業といえば Git リポジトリを HTTP のドキュメントルート以下に置いて post-update フックを用意することだけです (Git のフックについては第 7 章で詳しく説明します)。これで、ウェブサーバー上のその場所にアクセスできる人ならだれでもリポジトリをクローンできるようになります。リポジトリへの HTTP での読み込みアクセスを許可するには、こんなふうにします。

$ cd /var/www/htdocs/
$ git clone --bare /path/to/git_project gitproject.git
$ cd gitproject.git
$ mv hooks/post-update.sample hooks/post-update
$ chmod a+x hooks/post-update

これだけです。Git に標準でついてくる post-update フックは、適切なコマンド (git update-server-info) を実行して HTTP でのフェッチとクローンをうまく動くようにします。このコマンドが実行されるのは、このリポジトリに対して SSH 越しでのプッシュがあったときです。その他の人たちがクローンする際には次のようにします。

$ git clone http://example.com/gitproject.git

今回の例ではたまたま /var/www/htdocs (一般的な Apache の標準設定) を使用しましたが、別にそれに限らず任意のウェブサーバーを使うことができます。単にベアリポジトリをそのパスに置けばよいだけです。Git のデータは、普通の静的ファイルとして扱われます (実際のところどのようになっているかの詳細は第 9 章を参照ください)。

HTTP 越しの Git のプッシュを行うことも可能ですが、あまり使われていません。また、これには複雑な WebDAV の設定が必要です。めったに使われることがないので、本書では取り扱いません。HTTP でのプッシュに興味があるかたのために、それ用のリポジトリを準備する方法が http://www.kernel.org/pub/software/scm/git/docs/howto/setup-git-server-over-http.txt で公開されています。HTTP 越しでの Git のプッシュに関して、よいお知らせがひとつあります。どんな WebDAV サーバーでも使うことが可能で、特に Git ならではの機能は必要ありません。つまり、もしプロバイダが WebDAV によるウェブサイトの更新に対応しているのなら、それを使用することができます。

利点

HTTP を使用する利点は、簡単にセットアップできるということです。便利なコマンドで、Git リポジトリへの読み取りアクセスを全世界に公開できます。ものの数分で用意できることでしょう。また、HTTP はサーバー上のリソースを激しく使用することはありません。すべてのデータは HTTP サーバー上の静的なファイルとして扱われます。普通の Apache サーバーは毎秒数千ファイルぐらいは余裕でさばくので、小規模サーバーであったとしても (Git リポジトリへのへのアクセスで) サーバーが過負荷になることはないでしょう。

HTTPS で読み込み専用のリポジトリを公開することもできます。これで、転送されるコンテンツを暗号化したりクライアント側で特定の署名つき SSL 証明書を使わせたりすることができるようになります。そこまでやるぐらいなら SSH の公開鍵を使うほうが簡単ではありますが、場合によっては署名入り SSL 証明書やその他の HTTP ベースの認証方式を使った HTTPS での読み込み専用アクセスを使うこともあるでしょう。

もうひとつの利点としてあげられるのは、HTTP が非常に一般的なプロトコルであるということです。たいていの企業のファイアウォールはこのポートを通すように設定されています。

欠点

HTTP によるリポジトリの提供の問題点は、クライアント側から見て非効率的だということです。リポジトリのフェッチやクローンには非常に時間がかかります。また、他のネットワークプロトコルにくらべてネットワークのオーバーヘッドや転送量が非常に増加します。必要なデータだけをやりとりするといった賢い機能はない (サーバー側で転送時になんらかの作業をすることができない) ので、HTTP はよく ダム (dumb) プロトコルなどと呼ばれています。HTTP とその他のプロトコルの間の効率の違いに関する詳細な情報は、第 9 章を参照ください。