サブツリーマージ
サブモジュールの仕組みに関する問題を見てきました。今度は同じ問題を解決するための別の方法を見ていきましょう。Git でマージを行うときには、何をマージしなければならないのかを Git がまず調べてそれに応じた適切なマージ手法を選択します。ふたつのブランチをマージするときに Git が使うのは、_再帰 (recursive)_ 戦略です。三つ以上のブランチをマージするときには、Git は たこ足 (octopus) 戦略を選択します。どちらの戦略を使うかは、Git が自動的に選択します。再帰戦略は複雑な三方向のマージ (共通の先祖が複数あるなど) もこなせますが、ふたつのブランチしか処理できないからです。たこ足マージは三つ以上のブランチを扱うことができますが、難しいコンフリクトを避けるためにより慎重になります。そこで、三つ以上のブランチをマージするときのデフォルトの戦略として選ばれています。しかし、それ以外にも選べる戦略があります。そのひとつが サブツリー (subtree) マージで、これを使えば先ほどのサブプロジェクト問題に対応することができます。先ほどのセクションと同じような rack の取り込みを、サブツリーマージを用いて行う方法を紹介しましょう。
サブツリーマージの考え方は、ふたつのプロジェクトがあるときに一方のプロジェクトをもうひとつのプロジェクトのサブディレクトリに位置づけたりその逆を行ったりするというものです。サブツリーマージを指定すると、Git は一方が他方のサブツリーであることを理解して適切にマージを行います。驚くべきことです。
まずは Rack アプリケーションをプロジェクトに追加します。つまり、Rack プロジェクトをリモート参照として自分のプロジェクトに追加し、そのブランチにチェックアウトします。
$ git remote add rack_remote git@github.com:schacon/rack.git
$ git fetch rack_remote
warning: no common commits
remote: Counting objects: 3184, done.
remote: Compressing objects: 100% (1465/1465), done.
remote: Total 3184 (delta 1952), reused 2770 (delta 1675)
Receiving objects: 100% (3184/3184), 677.42 KiB | 4 KiB/s, done.
Resolving deltas: 100% (1952/1952), done.
From git@github.com:schacon/rack
* [new branch] build -> rack_remote/build
* [new branch] master -> rack_remote/master
* [new branch] rack-0.4 -> rack_remote/rack-0.4
* [new branch] rack-0.9 -> rack_remote/rack-0.9
$ git checkout -b rack_branch rack_remote/master
Branch rack_branch set up to track remote branch refs/remotes/rack_remote/master.
Switched to a new branch "rack_branch"
これで Rack プロジェクトのルートが rack_branch
ブランチに取得でき、あなたのプロジェクトが master
ブランチにある状態になりました。まずどちらかをチェックアウトしてそれからもう一方に移ると、それぞれ別のプロジェクトルートとなっていることがわかります。
$ ls
AUTHORS KNOWN-ISSUES Rakefile contrib lib
COPYING README bin example test
$ git checkout master
Switched to branch "master"
$ ls
README
Rack プロジェクトを master
プロジェクトのサブディレクトリとして取り込みたくなったときには、git read-tree
を使います。read-tree
とその仲間たちについては第 9 章で詳しく説明します。現時点では、とりあえず「あるブランチのルートツリーを読み込んで、それを現在のステージングエリアと作業ディレクトリに書き込むもの」だと認識しておけばよいでしょう。まず master
ブランチに戻り、rack
ブランチの内容を master
ブランチの rack
サブディレクトリに取り込みます。
$ git read-tree --prefix=rack/ -u rack_branch
これをコミットすると、Rack のファイルをすべてサブディレクトリに取り込んだようになります。そう、まるで tarball からコピーしたかのような状態です。おもしろいのは、あるブランチでの変更を簡単に別のブランチにマージできるということです。もし Rack プロジェクトが更新されたら、そのブランチに切り替えてプルするだけで本家の変更を取得できます。
$ git checkout rack_branch
$ git pull
これで、変更を master ブランチにマージできるようになりました。git merge -s subtree
を使えばうまく動作します。が、Git は歴史もともにマージしようとします。おそらくこれはお望みの動作ではないでしょう。変更をプルしてコミットメッセージを埋めるには、戦略を指定するオプション -s subtree
のほかに --squash
オプションと --no-commit
オプションを使います。
$ git checkout master
$ git merge --squash -s subtree --no-commit rack_branch
Squash commit -- not updating HEAD
Automatic merge went well; stopped before committing as requested
Rack プロジェクトでのすべての変更がマージされ、ローカルにコミットできる準備が整いました。この逆を行うこともできます。master ブランチの rack
サブディレクトリで変更した内容を後で rack_branch
ブランチにマージし、それをメンテナに投稿したり本家にプッシュしたりといったことも可能です。
rack
サブディレクトリの内容と rack_branch
ブランチのコードの差分を取得する (そして、マージしなければならない内容を知る) には、通常の diff
コマンドを使うことはできません。そのかわりに、git diff-tree
で比較対象のブランチを指定します。
$ git diff-tree -p rack_branch
あるいは、rack
サブディレクトリの内容と前回取得したときのサーバーの master
ブランチとを比較するには、次のようにします。
$ git diff-tree -p rack_remote/master